やさしく読む歎異抄 第十条 念仏には無義をもて義とす
「自分の考えを足さない」
一言でいうと
念仏は、自分の考えを足さずに、そのまま受けとるもの。
第十条は、歎異抄の折り返しの所です。第一条から第十条までは親鸞聖人の言葉、第十一条から第十八条までは、聖人が亡くなったあとに広まった、教えと違う考えを取り上げる部分です。
こんな気持ち、ありませんか?
理由が分からないと、不安
何でも「なぜ?」と理由を知りたくなることはありませんか。
第十条は、念仏は、言葉でも、説明でも、考えでも、とらえきれないものだ、と言います。
「自分流」を足したくなる
教わったことに、自分の考えを足して、もっとよくしたくなることはありませんか。
第十条は、念仏では、自分のはからいを入れないことが大事だ、と言います。
伝言ゲームのように
人から人へ伝わるうちに、話が変わってしまうことはありませんか。
第十条は、親鸞聖人が亡くなったあと、聖人が言っていない考えを言い合う人が多い、と言います。
たとえるなら、写真の加工
きれいな景色の写真に、フィルターを何枚も重ねると、本当の色が分からなくなります。
第十条も、念仏に自分の考えを重ねず、そのまま受けとるのがよい、と言います。
景色が念仏、フィルターが自分の考えにあたります。
この四つのたとえは、分かりやすくするために作ったものです。お寺や学者の説明ではありません。
原文とやさしい訳
①は、親鸞聖人の言葉です。②〜④は、歎異抄を書いた人の言葉で、このあとの第十一条から第十八条の前置きになっています。②と③は、原文では一つの長い文です。読みやすいように二つに分けました。
原文 1
「念仏には無義をもて義とす。不可称不可説不可思議のゆへに」とおほせさふうらひき。
やさしい訳: 「念仏では、自分のはからいがないことを、本当の意味とします。言葉でたたえることも、説明することも、考えることもできないものだからです」と、(親鸞聖人は)おっしゃいました。
原文 2
そもそもかの御在生のむかし、おなじくこころざしをして、あゆみを遼遠の洛陽にはげまし、信をひとつにして、心を当来の報土にかけしともがらは、同時に御意趣をうけたまはりしかども、
やさしい訳: さて、親鸞聖人が生きておられたころ、同じ志をもって、はるばる遠い京都まで足を運び、同じ信心をいただいて、これから生まれる浄土を心から願った仲間たちは、みんな一緒に、聖人から教えの心を聞きました。
原文 3
そのひとびとにともなひて、念仏まふさるる老若そのかずをしらずおはしますなかに、上人のおほせにあらざる異義どもを、近来はおほくおほせられあふてさふらうよし、つたへうけたまはる。
やさしい訳: けれども、その人たちについて念仏する、お年寄りや若い人が数えきれないほどいる中で、このごろ、聖人がおっしゃらなかった違う考え(異義)を、言い合っている人が多いと聞いています。
原文 4
いはれなき条々の子細のこと。
やさしい訳: その、根拠のない考えを、これから一つずつ書いていきます。
言葉の意味
- 無義をもて義とす
- 自分のはからいがないことを、本当の意味とする。古い訳では「義なきを義とした」もので「全く行者のはからひをはなれたもの」と言っています。
- 不可称不可説不可思議
- 言葉でたたえることも、説明することも、考えることもできない。古い訳では「称説も思議も及ばぬ」と言っています。
- 御在生
- 生きておられたころ。古い訳では「聖人御在世のころ」と言っています。
- 洛陽
- 京都の別の呼び名。
- 報土
- 浄土のこと。古い訳では「報土の往生をねがふ」と言っています。
- 異義
- 教えと違う考え。古い訳では「聖人の仰せられぬ異説」と言っています。歎異抄という名前も、こうした違う考えを嘆いて作られたことからきている、と説明されています。
出典
- 原文:蓮如(れんにょ)が書き写した本の第十条。親鸞仏教センター(真宗大谷派)講座資料「『歎異抄』思想の解明」(2026年6月16日)に載っている本文と照らし合わせました。「无義」は「無義」と書きました。 shinran-bc.higashihonganji.or.jp(PDF)
- 本派本願寺 編『意訳聖典』(大正12年・1923年)の「歎異鈔」十。 ウィキソース
- コトバンク「歎異抄」。 kotobank.jp
- コトバンク「洛陽」。 kotobank.jp
当コーナーでご紹介している「やさしい訳・たとえ・説明」は、出典をもとに GREEN EARTH HAYAMA が独自の理解に基づいてまとめたものです。宗派や寺院による公式な解釈ではなく、また読み方や解説は宗派・研究者によって異なる場合があります。あらかじめご了承ください。
本コーナーで扱う原文は、約700年前に記された『歎異抄(たんにしょう)』の蓮如(れんにょ)書写本に基づいています。